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広島高等裁判所 昭和24年(ナ)2号 判決

原告 忠海町議会

被告 広島県選挙管理委員会

一、主  文

昭和二十四年二月一日行われた原告議会の解散請求賛否投票の効力に関し原告のした訴願を同年六月十日附で棄却した被告の裁決を取消す。

右解散請求賛否投票は無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文記載の如き判決を求め、その請求の原因として、忠海町において選挙権を有する訴外松本得二外二十九人は有権者総数の三分の一以上の者の代表者であるとして、同町における旧軍用地及び施設の拂下をうけた後の処理について原告議会が昭和二十三年十月十五日した議決は民意を無視するものであるとの理由を以て、同町選挙管理委員会に原告議会の解散を請求し、昭和二十四年二月一日同委員会はこれを投票に付し、且つ過半数の同意があつたものとして同年二月二日これを公表した。原告議会は同月十四日同委員会に異議の申立をし、同月二十五日これを却下せられたので同年三月十五日訴願したところ、被告委員会は同年六月十日これを棄却する裁決をし、この裁決書は同月十六日原告議会に交付せられた。しかるに右原告議会の解散は次の理由によつて成立しないものである。

第一点 法定所要署名数の欠缺

忠海町の有権者の総数は五千五十五人であつて、その三分の一である千六百八十五名以上の者の連署がなければ解散請求は成立しないのであるが、本件解散請求においては氏名連記総数二千八百三十三名のうち少くとも千三百四十八人はその氏名を自署しないものであつて、これを右氏名連記総数から控除すれば残数は千四百九十五人となり單にこれだけでも本件解散請求の法定数に足らぬ。なお、八百七十二人の証人調の結果(イ)自署名でないもの二百五人(ロ)町を良くするために自署した者五十三人(ハ)議員をやめて貰うために自署した者六十六人(ニ)議員に替つて貰うために自署した者八十三人(ホ)第三者に代つて押印して貰うた者四十六人以上四百五十三人はいづれも無効署名と見るべきもので、この割合からすると署名総数二千八百三十三人の中には無効署名千四百七十一人を含むものとの推算を生ずる。更に署名中には拇印百九十八名押印のないもの四人計二百二人あり、大ざつぱに先づ約千五百人の無効署名があるから結局有効署名は約千三百三十三人に過ぎないこととなり到底解散請求の法定所要署名数に達しないことが明かであるから本件解散請求は成立しない。

第二点 署名簿の無効

署名簿は市町村毎に一個作成すべきものであつて数個の署名簿はあり得ない。本件においては一個の署名簿を分冊して各別に署名捺印を求め後にこれを集綴して一個の簿冊としたので署名捺印の連署性即ち先行署名の認識が可能であつてこれにつづいて連記するという方式を欠き全部の署名捺印が無効である。のみならず各冊に代表者の証明書の原本又は謄本を添付しないで署名捺印を求めたのであるから違式無効である。そして右原本又は謄本が各別に添付されてこそ分冊も署名簿といいうるならばこの添付のないものを集綴して本件署名簿は無効である。さらに本件署名捺印を求めるに当つては各分冊は更に細分せられ甚しいのは只一枚の紙片に解体して持廻られたものであるからその署名は無効である。そして分冊して署名捺印を求めること即ち二冊以上の署名簿によることが許されるとすれば、その一冊毎に請求代表者の証明書の原本又は謄本を添付することを要し、而かも署名簿を選挙管理委員会に提出する当時及びその後も完全な署名簿即ち右証明書の原本又は謄本が存続していることが必要である。然るに本件分冊された署名簿の集綴である簿冊(甲第二号証)には請求代表者証明書の謄本一枚が添付せられているのに過ぎずして、その余の証明書の謄本は選挙管理委員会に提出前破棄せられたものであるから、そのときに署名簿たることが破壞せられ選挙管理委員会に提出されたものは署名簿の残骸である。從つて本件解散請求の署名は全部無効である。

第三点 本件解散請求は権利の濫用である

本件解散請求は原告議会が昭和二十三年十月十九日陸地轉用物件活用に関する議決をしたことに対し、これが町民の輿論をきかないでしたとの点を非としてなされたものであつて、解散請求が唯一件にして且つ適法な議決を行うたこと即ち原告議会の適法な職務執行を対象としてなされたものである。然し議会の解散請求はその議会が住民の輿論を反映しない議決又はその他の職務を行う傾向を有する場合、即ち住民に対する背信的行動が持続性を有するときにこれを理由として始めて許されるものと解すものであつて違法性のない一回の議決を問題として直ちに解散請求をするような所爲は議会解散請求権の濫用である。而して議会解散請求者代表者が署名捺印を求めるに当つて署名簿の意義及び目的を署名者に対し明確に告げず或は別の目的のように申向けるなぞ詐術を弄して議会解散の意思のない者の署名捺印を獲得する方法を一般的に濫用し益々このリコールの違法性を高めた。

以上の理由により請求の趣旨記載のような判決を求めるため本訴請求に及ぶと陳述した。

(立証省略)

被告は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、その答弁として、原告議会の解散請求かあつたので(解散請求の理由は不知)昭和二十四年二月一日忠海町選挙管理委員会かこれを投票に附し、過半数の同意かあつたものとして同年二月二日これを公表したこと。原告議会は同月十四日同選挙管理定員会に異議の申立したところ同月二十五日却下せられたので三月十五日訴願したこと、被告委員会が同年六月十日これを棄却する裁決をし、その裁決書が同月十六日原告議会に交付せられたこと本件署名総数か二千八百三十三人であること八百七十二人の証人調の結果原告主張の(イ)乃至(ホ)の各事項の計数と拇印の署名者百九十八人押印のないもの四人あること代筆による署名二百五人及び押印のない四人の署名が無効であることは爭はないが、原告議会の解散は成立しないとの旨の他の主張事実は全部これを否認する。と陳述した。

(立証省略)

三、理  由

訴外松本得二等が代表者となつて廣島縣豊田郡忠海町選挙管理委員会に対し原告議会の解散を請求し、同委員会は昭和二十四年二月一日解散賛否投票を行い、その結果過半数の同意があつたものとして翌日二日これを公表したこと、原告議会は同月十四日同委員会に異議の申立をし、同月二十五日却下せられたので同年三月十五日被告委員会に訴願したところ、被告委員会は同年六月十日これを棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に爭がない。先づ原告議会の解散請求につき原告主張のような違法があるか否かを按ずるに第一点に付き本件解散請求の連署総数が二千八百三十三名であることは爭ないところであつて、原告はその内少くとも千三百四十八名はその氏名を自署したものでないと主張するけれども、この事実を確認する証拠はない。次に原告は右連署者の内八百七十二人を当審において証人として尋問した結果によると他人の代筆によるものその他合計四百五十三人の当然無効と認むべき署名があるから、この率からすると総署名数二千八百三十三人の中には無効署名千四百七十一人を包含するとの推算を生ずる、更に署名中には拇印百九十八人押印のない者四人があるから大ざつぱに先づ千五百人の無効署名があり有効署名は千三百三十三人に過ぎないと主張するけれども、かかる推算をすることが公平不備であり且つかくの如く一部証人調の結果に基き他を律して結論を導きだすことが合理的判断であるとする実驗則は存在しない。よつてかかる主張は採用し難い。

而して議会解散請求の署名簿には選挙人自ら署名し且つ印をおさねばならぬことは法の命ずるところであるから、自筆でなく第三者の代筆の署名及び押印のない署名が無効の署名であることは論のないところである。然しいわゆる押印は必ずしも自分の手で印章を押捺することを必要とするものではなく、自己の意思に基き他人を機関とし同人をして自己の印章を押捺せしめてもこれを無効とする理由はない。又拇印を捺印に代るものとして有効視することは実驗則に適合するものである。從つて当事者間に爭ない他人の代筆による署名二百五名押印のないもの四名の署名の無効であるとは言を俟たぬところであるが、第三者に代つて押印して貰うた者及び拇印した者の署名は無効であるとの原告の主張は採用しない。次に原告は町を良くするために自署した者、議員をやめて貰うために自署した者及び議員に替つて貰うために自署した者の署名が少くとも合計二百二名あり、これは議会解散請求の意思表示ではないから無効であると主張するけれども、証人大谷勝三の供述により成立を認め得る乙第一号証、証人伊勢本花市、明田豊、大谷勝三の供述によれば、忠海町においては旧陸軍用地及建物八千坪の拂下を受けたがその利用方法について町民間に燐寸工場誘致説と港湾の倉庫に利用せんとする説との二説が対立し、町議会もこれを決定し兼ね昭和二十三年十月十七日公聽会を開き町民の意見を徴したところ、輿論は港湾の倉庫説が有力であつて席上今井町会議長は善処すると約しながら十九日の議会で町民の意向を裏切り燐寸工場誘致案を議決したので、これに反対意見を持つ町民は本件議会解散請求の挙にでたものであることが明かである。そしてかかる趣旨が記載してある本件町議会解散請求書の写が添えてある署名簿に署名した者は一應かかる趣旨の下に町議会解散を欲する意思表示をしたものであると認めるのか相当であつて、右署名簿に署名した者にとつては議会解散の結果は町を良くすることにもなり、議員をやめて貰うことにも議員を替つて貰うことにもなるのであるから右署名した者が証人として尋問を受け町を良くするために、議員をやめて貰うために署名したと供述したことは寧ろ議会解散請求の意思の表示と同趣旨の表顕であると解するのが相当である。從つてこれ等の署名も本件議会解散請求の署名として有効であると解すべきである。仮に一歩讓つてこれを無効署名としてもこの署名二百二名と前説示の如く無効署名である代筆による署名及押印なき署名合計二百九名の署名の外原告の立証によつては他の署名の無効であることを認めることができぬから、結局総署名数二千八百三十三人中千三百四十八名乃至千五百名の無効署名があることを前提とし、忠海町の有権者の総数五千五十五人の三分の一である千六百八十五名以上の有効な連署がないから本件解散請求は成立しないとの旨の原告の主張は失当である。第二点について証人今市章、亀井寅一、重松鶴男、大谷勝三の証言前示乙第一号証を綜合すると、本件署名運動をするに当つては一個の署名簿を最初先づ三十冊に分冊し、各分冊毎に夫れ夫れ議会解散請求書の写及び請求代表者証明書の写を添えてあつたことが明かである。地方自治法施行令第百條第九十三條によれば町議会解散請求に関する署名簿は町毎に一個作成すべきことを命じているが、右の法意は署名運動をするに当りこれを分冊することを禁ずるものではなくして、各分冊毎に解散請求書の写及び請求代表者証明書の写が添えてあつて法定の署名簿たる様式に欠くるところがない以上、かかる分冊によつて署名運動をし、後にこれを合綴して一個の署名簿としても違法ではないと解するを相当とする。この点に関する一個の署名簿を分冊して署名を集め後に合綴したものはその全部の署名が無効であるとの原告の見解は採用しない。然し甲第二号証の署名簿を仔細に檢討すると、本件署名簿は、契印番号署名年月日、住所、生年月日氏名印の各欄を設けた罫紙百五十二枚に議会解散請求書写及請求代表者証明書写を添えて合綴してある一個の簿冊であること、そして契印欄には選挙管理委員会の照合印が押してあり、番号欄には(一)乃至(二八三〇番)までの番号が順次紙葉を追うて記入され署名年月日、住所、生年月日、氏名印欄には夫れ夫れ署名した者の右該当事項が記載され、その名下に押印又は拇印かしてあること、但し印が押してないものも数個所あること。然るに(1)一番から八二番までは十一月六日乃至十一月十四日までの(2)八三番から一〇一番までは十一月十一日乃至十一月十五日までの(3)一〇二番から一一九番までは十一月十四日及び十一月十五日の(4)一二〇番から二三九番までは十一月八日乃至十一月十三日までの(5)二四〇番から三二八番までは十一月七日乃至十一月十六日までの(6)三二九番から四三四番までは十一月六日乃至十一月十四日までの(7)四三五番から四五四までは十一月十一日の(8)四五五番から四九七番までは十一月六日乃至十一月十六日までの(9)四九八番から六三五番までは十一月六日乃至十一月十五日までの(10)六三六番から七五九番までは十一月六日乃至十一月十四日までの(11)七六〇番から七六二番までは十一月十五日の(12)七六三番から九一五番までは十一月六日乃至十一月十六日までの(13)九一六番乃至一〇五九番までは十一月五日乃至十一月十七日までの(14)一〇六〇番から一一一六番までは十一月十日乃至十一月十七日までの(15)一一一七番から一一六二番までは十一月九日乃至十一月十八日までの(16)一一六三番から一一九九番までは十一月十七日の(17)一二〇〇番から一九一五番までは十一月八日乃至十一月十八日までの(18)一二一六番から一二三八番までは十一月十日及び十一月十一日の(19)一二三九番から一二八四番までは十一月六日乃至十一月八日までの(20)一二八五番から一三〇四番までは十一月十九日の(21)一三〇五番から一三二一番までは十一月五日から十一月九日までの(22)一三二二番から一三九二番までは十一月八日乃至十一月十三日までの(23)一三九三番から一四二五番までは十一月六日乃至十一月十六日までの(24)一四二六番から一四八七番までは十一月八日乃至十一月十七日までの(25)一四八八番から一五五七番までは十一月六日乃至十一月十一日までの(26)一五五八から一六一九番までは十一月六日から十一月八日までの(27)一六二〇番から一六九三番までは十一月六日乃至十一月十六日の(28)一六九四番から一七一四番までは十一月六日及び十一月七日の(29)一七一五番から一八〇四番までは十一月十一日に始まり遡つて十一月六日の(30)一八〇五番から一八〇九番までは十一月十二日乃至十一月十四日までの(31)一八一〇番から二〇〇二番までは十一月八日乃至十一月十四日までの(32)二〇〇三番から二一二六番までは十一月十二日及び十一月十三日の(33)二一二七番から二二〇五番までは十一月六日の(34)二二〇六番から二二六一番までは十一月七日乃至十一月十八日までの(35)二二六二番から二三〇七番までは十一月六日乃至十一月十四日までの(36)二三〇八番から二三三八番までは十一月七日乃至十一月十七日までの(37)二三三九番から二三五一番までは十月八日乃至十一月十七日までの(38)二三五二番から二三七六番までは十一月十六日乃至十一月十五日までの(39)二三七七番から二四七九番までは十一月六日乃至十一月十七日までの(40)二四八〇番から二五七六番までは十一月六日乃至十一月十八日までの(41)二五七七番から二五九六番までは十一月七日乃至十一月十八日までの(42)二五九七番から二六五九番までは十一月六日乃至十一月十一日までの(43)二六六〇番から二六七〇番までは十一月十三日の(44)二六七一番から二六八七番までは十一月六日附及び日附を欠くものの(45)二六八八番から二六九四番までは十一月七日乃至十一月十七日までの(46)二六九五番から二七一九番までは十一月六日乃至十一月十八日までの(47)二七二〇番から二七七九番までは十一月九日乃至十一月十九日までの(48)二七八〇番から二八三〇番までは十一月十四日乃至十一月十九日までの各署名か各連記記載されており、しかも以上(1)乃至(48)の各連記署名の末尾には数行乃至十数行の空白罫を存していることが明かである。かくの如く(1)乃至(48)の各連記署名の最後の年月日が次の署名年月日より先日附となつておつて、右連記毎に署名年月日が前後している点及びその末尾に空白の存している点に証人明田豊、伊勢本花市、亀井甚松の供述を綜合して考えるに本件署名簿は前認定の如く最初適式な三十冊に分冊された後愈々署名運動に着手するに及び、これを更に分冊して少くとも合計四十八部に分ち、これを持廻つて署名捺印を求めたものと認めざるを得ない。而かも前認定の如く署名簿の適式要件である解散請求書の写及び請求代表者証明書の写は内三十冊丈けに添えてあつたに過ぎないから少くとも十八部については右書類の写は添えてなかつたもの、換言すれば無効の署名簿であるといいうる。而して前認定の(1)乃至(48)の各連記署名のうち何れか適式の署名簿の部分に該当するかを判べつすべき何等の資料がないから結局かかる違式無効な分冊した署名簿を合綴りした本件甲第二号証の署名簿の署名は地方自治法施行令第九十二條第百條にいわゆる法定署名簿による署名といいえないから、全部無効であると判定するを相当とする。從つて無効の連署によりなされた本件町議会の解散請求もまた無効であつて、これに基く解散請求賛否投票もまた無効とすべきである。これを有効なものとして原告の訴願を棄却した被告の裁決は他の点の判断をするまでもなく既にこの点において失当であつて取消を免れない。よつて原告の請求を正当としてこれを認容し訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條の規定に則り主文の如く判決する。

(裁判官 小山慶作 横山正忠 宮田信夫)

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